近年、ソフトウェア業界を中心にサブスクリプションと呼ばれる新しい形態のビジネスモデルが増加しています。
この記事では、サブスクリプションビジネスに関する下記のようなことが分かります。
- サブスクリプションモデルの特徴
- 「レンタル」や「定額制ビジネス」との違い
- 代表的なサブスクリプションビジネスの例
- サブスクリプションビジネスにおける収益の考え方
サブスクリプションビジネスの特徴
まず、サブスクリプションモデルの特徴から説明していきます。
そもそも「サブスクリプション」とは雑誌などの定期購読を意味する英単語です。出版業界で使われる言葉でしたが、それが転じてソフトウェアやITの世界でも最近では頻繁に使われています。
この記事では主にIT産業で使われるサブスクリプションの概念を例に説明しています。
サブスクリプション以前のビジネス
サブスクリプション以前の商用ソフトウェアの世界では「ライセンス」といって、CDROMなどの媒体に記録されたデータとシリアルナンバーごと購入する形態がほとんどでした。
これは例えば、Office365以前のMicrosoft Officeのようなサービスを想像して頂くとわかりやすいかもしれません。
ライセンスでの購入は通常は1年以上などの最低期限が定められていて、その期間分を一括で支払う形態がメインになります。
ソフトウェアを頻繁に使うユーザもそうでないユーザも同じライセンス料がかかりますので、その商品にあまり価値を感じないユーザにとっては必要以上に高い買い物です。
また、この購入方法ではサービスに価値を感じない、途中で辞めたいと思った時もすでに支払った分は返ってこないため、自由度が低いという問題がありました。
サブスクリプションは「利用権」を買うモデル
一方でサブスクリプションモデルでは商品そのものの権利を購入するのではなく、『商品を一定期間利用する権利』を購入します。
いちど商品を買ってしまえば、もし想像以上に使う機会が無かったとしても満額を支払うことになりますが、サブスクリプションでは予め有効な利用の期限が決まっていますので、サービスが合わないと思えばすぐに利用を停止できるメリットがあります。
多くのサブスクリプションサービスは月単位、あるいは日割りで返金を受け入れているサービスもあります。実質1日単位でサービスを利用できるということですね。
「定額制」や「レンタル」との違い
一方、最近ではサブスクリプションが『月々の定額料金で利用できるサービス』と思われている風潮もあるかと思います。
しかしこれは誤解で、サブスクリプションは必ずしも定額使い放題のサービスではありません。より厳密にいえば、サブスクリプションは前述の通り利用権の購入であり、必ずしも定額であることを指しません。
たとえばAzureやAWSのようなクラウドサービスは、サーバを購入することなく任意の期間利用する権利を購入しますのでサブスクリプションの一種ですが、課金は定額ではなく、ユーザが利用した分を請求されます。
また、サブスクリプションはレンタルとも明確に区別されます。
例えばレンタカーは事前に契約した車種を一定時間借り受けるサービスです。契約の途中で車を乗り換えたりすることは基本的に想定されていません。
しかし、サブスクリプションサービスの一種であるカーシェアであれば、ユーザは企業と「一定期間の車の利用権」を契約することになりますので、契約の範囲内で車を乗り換えたり、複数の車を乗り継いだりすることも可能になります。
よって、サブスクリプションの特徴としては次のようなことが言えます。
- サービスを「所有」せずに「利用」する
- 商品を「独占」せずに「共有」する
- 契約については長期のコミットメントを要求せず、任意に解約できる
サブスクリプションは「所有」せずに「利用」するサービスですが、これにより会計上の処理も従来の購入方法とは異なるようです。
購入したソフトウェアは(多額であれば)資産となり、バランスシートの項目になります。これはソフトウェアだけでなくサーバなどでも同様です。
一方でサブスクリプションはリースなどとも異なり、費用は経費となりますので、B/SではなくP/Lの項目となります。これによってバランスシートの縮小にも効果があると言えそうです。


サブスクリプションサービスの例
次に、上記のような特徴を持つサブスクリプションサービスをいくつかのジャンルで分類していきます。
ソフトウェア
サブスクリプションという概念自体がソフトウェアビジネスから生まれただけあって、サブスク形式のソフトウェアは非常に多く存在します。
必ずしもサブスクリプションとは一致しませんが、パッケージではなくネット経由で提供されるソフトウェアを特にSaaS(Software as a Service)と呼ぶこともあります。
- Office365:Microsoft Officeのサブスクリプション
- Evernote:メモやファイル共有
- Dropbox:クラウドストレージ
- Slack:ビジネス向けチャットアプリ
エンターテインメント
音楽や映画などのサブスクリプションはもっとも普及しているサービスのジャンルなのでご存知の方も多いと思います。下記のようなサービスが代表格です。
- Netflix:映画やオリジナルドラマ
- hulu:映画やオリジナルドラマ
- Spotify:音楽
- Amazon Prime Video:映画やドラマ
クラウドサービス
このブログでもよく取り上げているクラウドは、APIによってリソースが管理されているため、ソフトウェアではなくインフラでもサブスクリプションモデルが成立しています。
一部のプライベートクラウドでは初期費用や最低契約期間が定められるなど厳密なサブスクリプションではありませんが、下記3つのメガクラウドは従量課金のサブスクリプションモデルを採用しています。
- Microsoft Azure
- Amazon Web Service
- Google Cloud Platform
自動車
近年ではITの発達によって、ソフトウェアや情報産業以外の業界でもサブスクリプションモデルが増加しています。
代表的なものはトヨタの自動車サブスクリプションサービスで、プランによって複数台の車を利用することができます。
- kinto
サブスクリプションモデルの収益構造
サブスクリプションは従来のビジネスと異なり商品を売って終わりではありません。ユーザにできるだけ長くサービスを利用してもらうことが重要です。
ユーザはいつでもサービスを解約することができるため、企業は常にユーザに満足してもらえるように価値を提供し、解約を防止しなければなりません。
サブスクリプションビジネスの収益を考えるにあたり、2つの重要な用語があります。
サブスクリプションはロングテールなビジネス
月の売上であるMRRが重要であることは直感的に理解ができると思います。
もうひとつ、チャーン(離脱)が重要な理由としては、大きく2つの理由があります。
- サブスクリプションビジネスでは、離脱さえなければ自動的に売上になるから
- 現ユーザの維持に比べ、新規ユーザの獲得は大きな投資が必要になるから
つまり、サブスクリプションビジネスでは既存のユーザを維持すること以上に投資対効果が高い施策は無いのです。
サブスクリプションビジネスの収益をシミュレーションする
具体的な例を挙げてサブスクリプションビジネスの収益を考えてみましょう。
まず、ある月のMRRを計算する式を下記に定義します。
MRR = 1ヶ月前のMRR × (1-チャーンレート) + 新規獲得MRR
ただし、新規MRRの期待値は成約率×単価×リード数で計算します。
この公式に下記の数字を代入することとします。
- 1ヶ月前のMRR:10,000,000円
- チャーンレート:1%
- 成約率:5%
- 単価:50,000円
- リード数:100件
このとき、
MRR = 10,000,000 * (1-0.01) + 50,000 * 0.05 * 100 = 9,900,000 + 25,0000 = 10,150,000円
となり、1.5%の成長となります。
結果そのものよりも、一つ手前の項に注目ください。上の式ではチャーンレートを1%と仮定しましたが、これが2%だとすればどうでしょうか。
チャーンレートが1%増えるだけでこの企業の月の売上は10万円下落します。この10万円を新規の顧客で取り戻そうとした場合、2件の成約が必要になります。
成約率は5%ですから、2件の成約のためには40件のリードが必要となります。
どうでしょうか。たった1%のチャーンを取り戻すためになんと40件ものリードを獲得する必要があるのです。これは非常に大きな営業コストになります。
逆に言えば、チャーンが極めて低く抑えられている企業では安定的な売上が見込めますので、その分安定的な経営や営業が可能になります。
まとめ
この記事では、最近話題になっているサブスクリプションモデルについて特徴と代表的なサービスを紹介しました。
サブスクリプションモデルはユーザにとって契約の柔軟性が高く、すぐにやめることもできるメリットがあります。
一方で、サービスを提供する企業にとっては、いかに魅力的なサービスをリリースしてユーザの離脱を防ぐかが生命線になっていると言えそうです。
今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。


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