この記事のタイトルである「私の財産告白」という本は、大学教授の本業傍ら副業と投資によって巨額の富を得られた本多静六博士の回顧録です。
この本は1950年に初版が出ておよそ70年が経ちますが、私達がお金と仕事で成功を収めるための多くの示唆を与えてくれます。
この記事では、同書で紹介される本多式蓄財術のエッセンスを引用しつつ、現代の環境でこの手法を実現するためのアイデアについて書いていきたいと思います。
本多静六博士
本多静六博士は1866年、江戸時代の末期に生まれた方です。
当時最先端の林学を学ぶためにドイツへ留学され、明治25年、満25歳のときに帰国し、東大の助教授になりました。
その後の活躍により日本では『公園の父』と呼ばれ、日比谷公園や明治神宮など今も残る公園の設計に携わられています。まさに林業、造園などの業界で日本の近代化を支えた祖である方です。
本多博士は本業でも大成されましたが、一方で若い頃は苦学をされ、その末に独自の蓄財方法を編み出されました。
それを本多式蓄財法と呼び、同書の中核として紹介されています。
本多式蓄財法
本多博士の財産構築法は非常にシンプルで、たった3つの要素からなります。それは
- 貯金
- 副業
- 投資
です。この3つでもまず大切なのは最初の貯金であるとされ、独自のルールを導入し、後の投資などの原資を作られています。
本多式「4分の1」貯金
本多博士の貯金ルールは、自身の年収額に対して下記の式で表すことが出来ます。
貯金=手取り収入の25%+臨時収入の100%
つまり、年間の貯金額は手取り年収の4分の1と、ボーナスなどの全額の合計となります。
本多博士はこの習慣を東大助教授として着任された25歳からスタートしています。
本人の手記によると、当時の月収は60円、控除後の手取りは58円とのことです。明治30年頃の物価は今の1/3,800くらいと言うことですので、額面と手取り月収はそれぞれ228,000円と220,400円くらいに換算できます。
当時は税金や年金の控除率が低かったとはいえ、金額そのものは現代の20代中盤の収入と大きくは違わないのではないでしょうか。
そして、本多式貯金法では額面の25%を天引き(※銀行引き落としや給与から自動的に引くこと)にて貯金するため、現在の物価にして毎月55,000円ほどを貯金されていたことになります。
そしてボーナスなどの月収以外の収入については全額を貯蓄に回します。本多博士はこのルールのことをこう述べています。
苦しい苦しいで普通の生活を続けて、それでもいくらか残ったら…と望みをかけていては、金輪際余裕の出てこようはずはない。貧乏脱出にそんな手ぬるいことではとうてい駄目である。いくらでもいい、収入があったとき、容赦なくまずその四分の一を天引きにしてしまう。そうして、その余の四分の三で、いっそう苦しい生活を覚悟の上で押し通すことである。(中略)私はただ生活の出発を一段下げた処から始めるとさえ考えればよろしかったのである。
月給とアルバイト、利子の共稼ぎ
私達のような(そして、かつての本多博士のような)勤労生活者がお金を作るにはただ節約と貯金とを行うだけでは不十分です。
その一つとして本職に差し支えない限りのアルバイト(副業)をすることを勧められています。
本多博士の場合は一日1ページ以上の文章の執筆で、この積み重ねにより、生涯でなんと370冊以上の著作を出版されています。そしてそれらが権利料という形でお金を生んでいることは言うまでもありません。
そして、貯蓄と副業とで種銭を作ったあとは、投資によってお金を殖やすことが肝心と述べられています。
しかし、この投資に関してもどんな方法でもいいという訳ではありません。私達は下記のアドバイスを肝に銘じておくべきでしょう。
それは断じて「投機」ではない。「思惑」ではいかん。あくまでも堅実な「投資」でなければならぬのだ。
本多式貯金を現代に当てはめてみる
さて、案外にシンプルかつ強力な自制を求める本多式蓄財法を説明した上で、これを2020年の現在で実行するとどうなるかを仮に求めてみたいと思います。
前提となるルールは本多式をそのまま考慮しますが、この方法が編み出された1900年当時とはいくつか大きく前提が異なることは事実です。
- 年金や税金、保険などの控除率が大きく上がっている
- マンション暮らしの人が増え、家賃の固定費率が上がっている
- 国内の経済成長率が小さくなり、銀行預金や株でも当時ほどの期待リターンは出ない
- 年収の成長に関しては個人の素養によるところが大きくなった
など、マクロでの経済事情は当時よりも冴えない一方で、キャッシュフローの可視化や投資の自動化、金融商品へのアクセスのしやすさは彼の時代よりもはるかに簡単になっています。
ポートフォリオとシミュレーション
さて、以上のように事情の違いをふまえ、本多式蓄財法を現代のビジネスパーソンでシミュレーションしてみましょう。
前提条件は下記と置いてみます。
- 年齢30歳
- 30歳時点での資産額はゼロ
- 東京都内在住、一人暮らし、賃貸
- 年収は420万円(うちボーナスは2ヶ月分)
- 年収増加率は年2%(60歳時点で760万円まで増加)
- 副業として年12万円を得る
- 投資によるリターンは毎年3%とする
- 前年までの合計資産に、その年の貯蓄を足し合わせた額に対し投資のリターンをかけ合わせた金額を各年での累計資産額とする
30歳時点での年収は厚生労働省の「2017年賃金構造基本統計調査」を参考にしています。年収の増加率は仮置きですし、途中で転職することもありますのであくまでもモデルケースだとお考えください。
この結果は下記の図表のとおりです。
年齢 | 年収 | 手取り | 月収 | ボーナス | 貯蓄 | 副業 | 資産合計 |
30 | 4,200,000 | 3,255,000 | 232,500 | 465,000 | 523,125 | 120,000 | 662,419 |
35 | 4,637,139 | 3,593,783 | 256,699 | 513,398 | 577,572 | 120,000 | 4,457,529 |
40 | 5,119,777 | 3,967,827 | 283,416 | 566,832 | 637,686 | 120,000 | 9,172,821 |
45 | 5,652,647 | 4,380,801 | 312,914 | 625,829 | 704,057 | 120,000 | 14,987,715 |
50 | 6,240,979 | 4,836,759 | 345,483 | 690,966 | 777,336 | 120,000 | 22,113,629 |
55 | 6,890,545 | 5,340,173 | 381,441 | 762,882 | 858,242 | 120,000 | 30,799,431 |
60 | 7,607,719 | 5,895,982 | 421,142 | 842,283 | 947,569 | 120,000 | 41,337,798 |

いかがでしょうか。いくつかの前提を置いてはいますが、本多式蓄財方を遵守すればここまでに財産が築けることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
ちなみに現代の偉大な投資家として知られるバフェットも「ゆっくりと金持ちになるのは簡単」という旨の発言を過去にされています。
それだけ、節制と時間を味方につけた積み重ねの効果が大きいということでしょう。
ちなみに、30歳時点での年収が仮に300万円であったとしても、同条件下での60歳時点での資産は1千万円しか変わりません。大切なのは今の年収よりも、ルールを徹底して時間を味方につけることです。
本多式貯金術(現代版)の実現にむけて
以上の説明で、本多式蓄財法の威力について理解いただけたのではないでしょうか。
本多博士は我々に大きなアドバイスを遺してくれていますが、現代では色々な手続きがはるかに楽に、簡潔にできます。
たとえば個人型の確定拠出年金であるIDeCoは毎月決まった額の投資信託を自動で買付け、しかもその分の費用は収入から控除できますので税制上のメリットがあります。
同様につみたてNISAも口座から定期的に株を買い付けてくれますので、一度買う銘柄さえ決めてしまえばあとは自動化が可能です。こちらもまた税制上のメリットがあります。
本多式貯金法では、手取りの四分の一を最初から無かったものとして扱うため、これらの自動化できる仕組みとは非常に相性が良いです。
また、Moneytreeのようなアプリを使えば貯金・株・財形貯蓄などを横断して資産総額が可視化できるため非常に励みになります。
まとめ
この記事では、本多静六博士の著作「私の財産告白」を引用しつつ、厳しいルールの遵守と時間を味方につけた蓄財法の効果について説明しました。
本多博士の生きた時代とは大きく前提が異なる部分もありますが、堅実な貯蓄と長期投資の重要さについては現在でも十分に通用するものということがシミュレーションから御理解いただけるのではないかと思います。
また、長年投資を続けるとどうしても状況の良い時悪い時がありますが、そんな時に役立つ、本多博士の時勢を読んだ逆張りの資産構築法を紹介しておきます。
好景気時代には勤倹貯蓄を、不景気時代には思い切った投資を、時機を逸せず巧みに繰り返す
今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。

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