私は2016年〜2018年まで東京工業大学環境・社会理工学院技術経営専門職学位課程というところに在籍し、技術経営(Management of Technology、以下MOT)修士を専攻していました。

同課程ではビジネス的な知識、実践のみならずゼミと研究を通じての研究者としての基礎スキルや、様々なバックグラウンドの同級生との幅広いネットワーキングなど様々な成果を得ることができました。
本記事では、私が検討していた国内のMBA/MOTコースの一部をご紹介するとともに、東工大MOTの特長や入学するまでにすべきことなどを説明していきます。
今、同課程への入学を検討されている方の参考となれば幸いです。
※東工大MOT開催の最新講座についてはこちらのリンクから
MBA/MOTとはなにか(読み飛ばしOK)
MBAとはMaster of BusinessAdministrationの略称です。日本語では経営学修士号、または経営管理修士号と呼ばれる学位であり、経営学の大学院修士課程を修了すると授与されます。(https://mba.globis.ac.jp/about_mba/)
MOTとは上記の通りManagement of Technologyの略称です。MBAと同じく経営に関する修士号ですが、経営・マネジメントのみならず、「技術力を競争優位性とした経営」に重きをおいた学問領域となります。
MBA/MOTともに何らかの資格というわけではなく、大学の学位の一種となります。
本記事では特に一度社会に出たビジネスパーソンが専業あるいは兼業の学生として学ぶ学校(海外で言うGraduate School)を主として紹介しています。
社会人として大学院に戻る理由には様々あります。単純に好奇心による場合もありますが、多くの場合はキャリアアップして転職、異動、起業など自らの仕事をシフトさせることが目的になります。また、すでに経営に携わる仕事をしている方が無手勝流ではない体系だった知識を得てもう一段高いステージへ上がるための足がかりとされているケースもあります。
昨今の変化の激しいビジネス環境では、一度大学を出ても学び続けることが市場価値を維持向上させるために重要だとして「リカレント教育」として知られています。

大学院選びの基準
選定対象となった国内MBA/MOTコース
まず、大学院を選定するにあたり、いくつか譲れない基準を持ってそれに該当するものをピックアップしました。下の表に私が検討したコースを表示します。※国内コースをすべて網羅したものではございませんのでご了承下さい。
また、分野としてはいわゆるビジネス、経営について学べる課程に限定しています。
●国立
大学院名 | 研究科名・専攻名 | 入学料 | 費用(半期) |
筑波大学大学院 | ビジネス科学研究科 経営システム科学専攻 | 282,000 | 267,900 |
東京工業大学大学院 | 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程(MOT) | 282,000 | 267,900 |
一橋大学大学院 | 経営管理研究科 | 282,000 | 267,900 |
首都大学東京大学院 | 経営学研究科 経営学専攻 経営学プログラム | 282,000 | 267,900 |
横浜国立大学大学院 | 国際社会科学府 経営学専攻 社会人専修コース | 282,000 | 267,900 |
京都大学大学院 | 経営管理教育部 経営管理専攻 | 282,000 | 267,900 |
●私立
大学院名 | 研究科名・専攻名 | 入学料 | 費用(年) |
慶應義塾大学大学院 | 経営管理研究科 | – | 2,217,600 |
早稲田大学大学院 | 経営管理研究科 | – | 1,883,000 |
東京理科大学大学院 | 経営学研究科 技術経営専攻(MOT) | 200,000 | 1,470,000 |
青山学院大学大学院 | 国際マネジメント研究科 国際マネジメント専攻 | – | 1,813,000 |
KIT虎ノ門大学院 | イノベーションマネジメント研究科 イノベーションマネジメント専攻 | – | ※ |
一見して、国立と私立とでは大きく費用が異なることがお分かりと思います。これは学部までとも同じ傾向です。
※KIT虎ノ門大学院は基礎授業料+選択科目数で合計が変動する構成となっています。
そして、大学院を選ぶ上で私が必須、あるいは重要視したのは下記のポイントです。
- 東京都内あるいは首都圏からアクセスがあること
- フルタイムで働きながら卒業できること
- 費用があまり多額でないこと
- 入学のタイミングがフレキシブルであること
- 座学だけでなく研究、卒論があること
- 可能であれば標準期間(2年)未満で修了できること
- 学位を取得できること
アクセスについては各校都心から便のいいところにキャンパスがあるのでさほど問題ではありませんでした。あえて言うなら職場からの乗り継ぎくらいでしょうか。
費用については圧倒的に国公立に分があります。また、東京大学には有名な技術経営戦略学専攻(TMI)というコースがありますが、日中の講義が必須となり、仕事と両立できそうになかったため除外しています。
結論として、これらすべてを満たすのが東工大MOTでした。次のセクションでその特徴を説明していきます。
(※2010/10/30学内の雰囲気と特色について別記事にまとめました)
東京工業大学を選んだ理由と特徴
上記のような観点から東工大MOTコースを志しましたが、その特徴は下記のとおりです。
- キャンパスはJR田町駅至近(芝浦口)+所属研究室によっては目黒区大岡山駅至近キャンパス
- 平日講義は16時台から一コマと、18:30頃から一コマ。後半のコマだけでも選択可能
- 土曜は9:00~18:00まで最大5コマ選択可能。日曜日は全休
- 国立の学費に加え、厚生労働省のプログラムで更にキャッシュバックあり(後述します)
- 春(4月)と秋(9月)の年2回の入学タイミング
- 学生全員が研究室に所属し、修了にはプロジェクトレポートと呼ばれる論文とプレゼンテーションが必修科目
- 既に修士号を所持、あるいは過程中で成績優秀であれば1年、あるいは1.5年での修了可能。修士号所持者は過去の単位を東工大MOTの単位に振り替え可能
- 修了で技術経営修士号(MOT)を取得
上記のうち、厚生労働省のプログラムについて次のセクションで説明します。
MOTの講義はほぼ全て田町CIC(キャンパスイノベーションセンターの略)で行われます。JR田町駅至近です。平日は2コマありますが、前半のコマはあまり社会人はいません。また、各年で時間割はシャッフルされますので、仕事の都合で履修できない講義も翌年取れる可能性は高いです。
土曜日は朝から夕方まで講義があります。日曜日はお休みなのでご家族のいらっしゃる同級生は日曜にまとめてお家のことをしていました。
期末になるとこのスケジュールに加えてレポートやプレゼンテーションスライドづくりに追われるので皆楽しいながらも大変そうでした。
田町所属の教員についた場合は田町ですべて完結しますが、一部の教員は本拠地が東急大岡山駅にありますのでゼミなどの際はそちらに通うことになります。田町駅⇔大岡山駅は電車で30分程度です。
入学は春秋の2回ですが、入試は8月です。直後の秋入学と、翌春の入学者が対象です。
また、社会人のみが対象となる入試が12月にありますが、8月で残った枠を争うことになりますので8月の試験にエントリーするのが良いかと思います。
倍率は年によって変わりますが、だいたい1.5倍~2倍程度です。東工大の学部の競争率を考えれば低倍率ですが、最近は本課程も人気が出てきて倍率が上がる傾向にあります。
東工大MOTの特徴的なカリキュラムとしては、学生全員が指導教員を選んでゼミに所属します。ゼミの運営は教員の方針次第ですが、勉強会や研究の進捗報告が定期的に回ってくるのは共通のようです。
そしてそれぞれが教員の指導を受けて研究を進め、卒業する際にはプロジェクトレポートとして論文形式にまとめます。本格的な修士論文ほどのボリュームはありませんが、先行研究の調査に始まり、書き方、分析、論述ときちんと論文の書き方を身につけることができます。
私の同級生もこのきちんと研究を指導してもらえるカリキュラムが決定打になって進学を決めた人もいます。座学だけのコースと違い、オリジナルの研究をアウトプットする機会はとても勉強になりますよ。
また、カリキュラム構成のユニークな点として、過去別の修士課程で取得した単位を東工大修士課程の単位に振り替えることができます。私は昔電気電子の修士号を持っていたので、電子回路や電磁気の単位を振り替えることができました。MOTの卒業単位も一部は自由に選択する余地があるのでそちらを埋めるために助かりました。
(MOT独自のビジネス系必修科目などは自力で履修しましたが)
(※2019/11/09東工大MOTをさらに知るための講座、説明会の詳細について追記しました)
Ph.Dと同時に受講する「デュアルディグリープログラム」
また、該当する人は多くは無いかもしれませんが、東工大の別の過程でPh.Dを専攻されている人は、追加の費用なしでMOTのプログラムを受講することができます。
スケジュール的にはハードになりますが、Ph.D取得と同じ期間でMOTも取得することができます。
実際に私と同じゼミにいたPh.D課程の方もこのプログラムを選択しておられました。
厚生労働省の教育訓練給付制度について
教育訓練給付制度とは、厚生労働省が認めたキャリア形成を支援するコース受講者に対し、その学費の一部を還付するものです。下記に引用を掲載します。
働く方の主体的な能力開発の取組み又は中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とし、教育訓練受講に支払った費用の一部が支給されるものです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
また、初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する方で、受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たす方が、訓練期間中、失業状態にある場合に訓練受講をさらに支援するため、「教育訓練支援給付金」が支給されます。
執筆時点で教育訓練給付制度に認定されているコースはこちらです。
詳しくは公式の資料を御覧いただきたいのですが、上記一覧の中でも一橋、東工大など複数のコースが認定されています。
東工大MOTでは半期ごとに40%のキャッシュバックを得ることができます。また、卒業後に正社員として社保に加入すれば更に20%分のキャッシュバックがあり、計60%の還付が得られます。すでに社保に加入している受講者は無条件で6割還付となります。(事前にハローワークに申請が必要なのでご注意ください)
キャッシュバックは入学金にも適用されますので、60%の還付を前提とすれば、2年の期間で54万1,440円で学費が賄えてしまいます。これはかなり大きいのではないでしょうか。
過程説明会で情報をフォロー
東工大MOTを受験する意思をお持ちになったら、田町で開催される説明会に参加されることをおすすめします。制度の説明のほか、現役学生とのQAなどもあり、実際の温度感を確かめるのに最適です。
ちなみに私は説明する側としても参加したことがあります。様々なバックグラウンドから見学者がきていて非常に興味深かった記憶があります。
説明会も春秋それぞれで複数回ありますので公式HPをチェックして下さい。
願書出願までの手順と作業
大前提として、書類の書き方や締切については募集要項を参照して下さい。


英語については事前の受験と提出が必要
注意すべき点としては、英語は個別の試験がありませんので事前に外部のテストで得た結果を提出する必要があります。認められている試験はTOEFL(IBTまたはPBT)、TOEICで、会社などで受けられる団体スコアは認められません。定期実施されているテストを個人で受けた結果のみが有効となります。
外部試験の申し込み〜受験〜結果発表まではそれなりに期間がかかりますので、願書の締切から逆算して問題のないよう申し込みおよび当日までの勉強を勧めておくことをおすすめします。
TOEICとTOEFLはどちらを選んでも不公平感が出ないよう、変換の公式がありました(入試案内に掲載されていた記憶があるのですが、どうしても探せなかったため、外部サイトをリンクさせて頂きます)。

英語に限らず一次の入試に関しては合否のみで点数が分かりませんのではっきりしたことは言えませんが、ある点数以上で満点換算になると聞いたことがあります。
また、そもそも入試全体での英語の配点も不明なため、英語の点数が全体の何割くらいに貢献してくるのかも確かなことは不明です。
ただ、私と近い時期に入学された方の中には、かなり英語のスコアに自信がない方もいらっしゃったので、やはり英語の配分はそれほど大きくないと見るのが妥当かと思います。
※3/10 この時に実践したTOEIC試験の勉強法について別記事にしましたので、是非ご覧ください。
研究計画書
願書には別の書式で研究計画を記述するところがあります。
私のときは希望する研究室(ゼミ)を第3希望まで書いて、所属後の研究プランについて書くというものでした。
後に記載がありますが、ここで作った研究計画書をもとに、二次試験の口頭試問を受けることになります。論理的な矛盾や不整合、あるいは研究室のスコープを取り違えていないか、など十分に事前検討しましょう。
どうしても英語試験や筆記に比べると対策がおろそかになりがちですが、東工大は『研究』を非常に大切にする校風でもあります。下記のような書籍を参考に基本的なところを押さえておくと良いと思います。

受験
試験は、数理的な基礎力と小論文による記述力をみる一次試験と、口頭試問(面談)の二次試験に分かれます。
配点は前者が20点で後者が80点程度で、年によっては小問に分割されることもあります。
筆記試験1問目:数的処理
1問目の数学(というか数学的パズル)は正直傾向が読みづらく定型的な勉強方法をおすすめしづらい所があります。あえて言うなら公務員試験の数的処理問題集でパターンを押さえておくことでしょうか。
配点も少ないため、ここに時間を使いすぎるよりは2問目の小論文に力を割きましょう。

筆記試験2問目:小論文
2問目は小論文です。配点が高いためしっかりと準備しましょう。
文字数は800~2000字程度で、慣れていないとなかなか書くのが大変な分量です。また、適当に書くとついついエッセイになりがちです。あくまで小「論文」であることに注意して下さい。
参考書としては下記の2冊が非常におすすめです。逆にこの2冊だけ読み込めば十分かと思います。


英語と筆記試験の結果を持って一次試験の結果が発表されます。筆記試験の日から2週間程度かかり、公式HPに受験番号の掲載があります。
口頭試問
一次試験である筆記に合格すると二次試験として口頭試問があります。
事前に願書と同じタイミングで研究計画書を提出していると思いますが、口頭試問は計画書に沿って質疑応答がなされます。
基本的には研究の指導教員候補の先生がファシリテーターをつとめ、かつ質問もメインでされます。口頭試問では研究の実現可能性や希望研究室で扱う既存テーマとのフィット、仕事の都合と学生生活との折り合いなどについて質問を受けます。
一人15~20分程度の時間だったと記憶しています。研究計画についてはきちんと論理が通るように遂行しておきましょう。
まとめ
以上、東工大MOTの特徴と情報収集、受験までの大まかなフローについてご紹介しました。
東工大MOTは他大学のコースと違い、研究を軸にカリキュラムが組み立てられていることが大きな特徴です。また、厚労省のプログラムにより負担費用が削減できることも大きな魅力です。
ただでさえ多忙な社会人生活に講義どころか研究も入ってくるため多忙にはなるかと思いますが、費やした労力以上の成果が得られることは確かだと思います。
特に座学だけでなく自らアウトプットを重ねて成果を確かめたい、同級生とディスカッションを通じて知見を蓄えたい方にはおすすめです。
今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。
コメント