ふくおかFG(福岡県福岡市中央区)がアクセンチュアと組んで次世代のバンキングシステムをGoogle Cloud Platform(GCP)上に構築することが発表されました。また、2020年8月には「みんなの銀行」という名称でモバイル専業の銀行を立ち上げることを報じました。

この記事では、地方銀行というビジネスの特殊性と、IT利用におけるこれまでの経緯から上記報道の持つ意味や、地銀全体でのDXについて説明していきたいと思います。
地銀というビジネスについて
デジタルについて議論する前に、まず地方銀行という業態について知ることが不可欠です。地方銀行とは、各都道府県に本店を置き、各地方を中心に営業を展開している普通銀行のことを指します。登録によって第一地銀と第二地銀に大別されます。
地銀は(大都市圏を除き)多くの場合各地方で最大級の金融機関で、主に各都道府県に根ざす企業の金融面での支援と地方経済の活性化をミッションとして掲げています。また、金融業のみならず多くの地銀は株、証券、不動産、IT、商社、コンサルティングなど多岐にわたる事業子会社を抱える、まさに各地方における代表的な企業として存在してきました。
かつては各地の優秀な子供が地元の大学に入り、卒業して地銀に就職するというのは一族に鼻が高いエリートコースでした。地銀とはその地方を代表する超優良企業だったのです。
地銀をとりまく環境は厳しい
その地銀が今苦境に立たされています。いくつかの悪い条件が重なってしまったためです。

1つ目の悪条件は、長引く超低金利政策です。銀行のビジネスの大きな柱の一つに融資業務がありますが、金利が下がるということは単純に利ざやが下がるということです。つまり、外部環境により利益率が下がらざるを得ない状況なのです。
そして2つ目が少子高齢化と過疎化による地方経済圏の衰退です。今や田舎のターミナル駅に行けばシャッター街と呼ばれるような商店街に出くわすことも多くなりました。地方の経済が衰退すれば当然お金を借りようとする法人は減少します。そんな地方を見限って若い人が都会へ出れば個人に対するローンなども需要が減少します。よって地銀は利ざやの減少と同時にパイの減少にも見舞われてしまいました。
更に3つ目が、デジタルをベースに持つ企業の金融業への進出です。2000年前後には日本国内におけるATMの台数はピークとなり、この頃にはいわゆるネット専業銀行が大きくシェアを伸ばしました。近年ではメガバンクが他業種と手を組み、ネット銀行を立ち上げるケースも多くあります。代表例はじぶん銀行、LINE銀行、楽天銀行などです。
地銀のビジネスモデル変革は楽ではない
こうした外部脅威にさらされた地銀は当然ながらほかのビジネスを模索してきました。近年の大きな潮流としては豊富なキャッシュを利用した有価証券(特に海外株式など)の運用や不動産の運用などです。しかし、地銀はもともと投資のプロでもなく、近年のボラティリティの大きな市場にあってその価値を大きく目減りさせてしまうこともありました。金融庁もこうした安易とも言える利益の補填に対しては明に暗に警鐘を鳴らして来ました。このあたりについては金融庁の公表する金融白書にデータ付きで述べられていますのでご覧ください。
また、直近ではスルガ銀行のいわゆるかぼちゃの馬車事業における与信の改ざんや、TATERUという不動産経営アプリの与信を担っていた山口県の西京銀行にも改ざんの疑いが起きるなど(その後の調査で同行行員の関与はないと発表されています)、金融業における過大なリスクを取ったが故の経営トラブルが多発しています。ちなみに、この件がおきるまではスルガ銀行は大胆な経営と高い利益率で業界の旗手として評価されていました。

これらの動きと並行して、メガバンクでは海外進出の動きが活発化しています。特にアジアなど近年経済発展のめざましい地域に進出すれば、かつての日本のように高い金利で融資業務ができると言うわけです。しかし、地銀には前述のように『各地域の経済に貢献する』というミッションが存在します。地元をないがしろにして新しい商圏を開拓することは厳しいのが現実でした。
地銀のデジタル化は必定、だが
以上のように、地銀は苦しい外部環境と他業種の脅威、地方に貢献するビジネスモデルからくる制約とまさに四面楚歌な状況にさらされています。
このような環境にあって、自らの高すぎるオペレーションコストを下げ、かつ物理的な制約なくあらたな商圏を目指すための方法としてITが注目されたのは自然の成り行きと言うべきでしょう。利益を生まない取引や各種手続きをネットに集約すれば、一番高コストな店舗と人員の整理ができますし、ネット経由であれば理論上全世界の人が潜在顧客となりえます。
理屈としては地銀のデジタル化は最善策のように思えます。しかし、他業界と比較してその進捗は芳しくありません。その理由としてはいくつかあるのですが、最もわかりやすい理由は『地銀にはITを企画して構築して運用する』ノウハウがないためです。この経緯についてはいつか別の記事に書かせて頂こうと思いますが、事実としてIT業務の過度のアウトソーシングが進んだためナレッジの空洞化が起こっています。
また、金融業であるがゆえの保守的なオペレーションのせいで、昨今のすさまじいテクノロジーの進歩を上手く取り込めないという自縄自縛現象が起こっています。
必要なのはデジタルを起点とした再構築
ここまでの記述で地銀の抱えるジレンマについてご理解いただけたかと思います。
自らを変革するにはあまりに大きく古くなりすぎた現状にあって、ふくおかFGの取った作戦は再構築でした。それも今までの自分たちのやり方ではなく、海外のチャレンジャーバンクにあるような完全デジタルネイティブなシステムを検討したはずです(おそらく、そのあたりの情報収集と戦略立案にアクセンチュアがだいぶテコ入れしたのでしょうが)。
しかし、言うは易し行うは難しで、少なくない投資をしてこの決断に踏み切ったふくおかFGの決断はそれだけに価値のあるものであると私は考えます。
おそらくはこれは今後発生する大きな動きの始まりに過ぎないでしょう。ここまで論じて来たように地銀を取り巻く構造的な苦境はすぐには回復する見込みはありません。その中にあって自分たちのビジネスを再定義し、生き残りをかけられる地銀と、前例踏襲で朽ちていく地銀との明暗はすぐに分かることでしょう。他の地銀からも今回のふくおかFGの動きはかなり注目されていることと思います。
しかし最近の報道ではまだまだ全車のポジションを取る地銀は少なそうなので、これから案外すぐ淘汰は始まるかもしれません。

FFGは「サブブランド」の戦略を選択
ここで本題に立ち返って、FFGのデジタルトランスフォーメーション戦略を少し考えてみましょう。こちらの「みんなの銀行設立準備株式会社」の設立に関するプレスリリースを参考にしてみます。
それによるとこういった記述があります。
(前略)デジタル時代におけるお客さまニーズにお応えするため、“全く新しい”将来の銀行像(To Be)をゼロベースで追求する新たな取組みとして、モバイル専業銀行(デジタルネイティブバンク)の開業に向けた準備 会社を設立することに致しました。(*1) FFGでは、既存ビジネス(As Is)におけるサービスの高度化を着実に遂行しながらも、本件における従来とは異なる アプローチで将来の銀行像の追求を同時に推進する “2wayアプローチ”(両利きの経営)を採用することで、FFGの DXの実現を更にスピード感をもって進めてまいります。
これはつまり既存の地銀らしい業務と顧客基盤はFFG本体に残し、新しい取り組みをスピード感をもって新会社でやっていく、という宣言です。
一般論ですが、この方式には以下のようなメリットがあります。
- 既存組織の人事や慣習にとらわれず、速やかにビジネスを遂行できる
- 地銀のイメージを払拭し、新たな事業体として自由にブランディングできる
- 上記達成のための情報システムはこれまでと全くアーキテクチャが違うので、そもそも運用を分ける必要がある
- FFG本体から見て事業のポートフォリオが増え、経営の安定性が増す
- 別会社あるいは別事業にすることで投資額等が明確になり、事業の管理が効率的
例えば化粧品メーカーは各商品のイメージや戦略に応じてブランドを分け、それぞれの責任者がブランドマネージャーとして運営していることが知られています。
銀行がメーカーのような戦略をとることに違和感があるかもしれませんが、海外の銀行では2010年代にはすでにこうした取り組みが行われていました。

また、この取り組みの有名な例としてはポーランドのmBank(エムバンク)があります。
mBankはもともとBRE Bankといってポーランドの地銀でしたが、サブブランド戦略としてデジタル専業銀行のmBankを設立します。驚くべきは2013年、BRE Bankは自身の商号を廃し、mBankの方へ吸収されました。つまり、親会社が子会社に吸収されたのです。
その理由として、デジタルネイティブなmBankは旧来型のBRE Bankよりもはるかに顧客エンゲージメントが高いことが調査でわかり、ブランドイメージ刷新のためにあえてmBankを残していくことを選択しました。
これは代表的な銀行業のデジタルトランスフォーメーションの例です。現に今でもmBankのHPはまるで銀行とは思えないほど綺麗にまとまっています(※現状日本からは口座開設はできない模様です)。

FFGが最終的にどういった判断をするのかはわかりませんが、世界にはここまで劇的に変化することで生き残った銀行が存在します。
伏線は張られていた
このニュースそのものは(プラットフォームがGCPであることも含めて)市場に驚きをもって迎えられましたが、この大きなリリースを出すにあたっての布石は前々からあったと言えます。

このニュースでは上記リリースの半年前に、FFGがアクセンチュアとデジタルバンキングに向けた包括契約(※種々のプロジェクト、ソリューションを手がける前提の大型契約)を結んだことが報じられています。
もともとFFGは地銀の中では先進的な取り組みを多く発表していますので、いずれはこういった動きになることも予想できたかもしれません。
アクセンチュアは金融領域でのビジネス拡大を計画?
このニュースのもう一つの側面は、世間的にはコンサルティングファームとして有名なアクセンチュアが金融ITの領域でより活発に活動してきていることを示してもいます。
現にアクセンチュアでは今も金融領域でのSEやコンサルを精力的に募集しています。

よって、FFGをフラッグシップモデルとして同領域でのDX支援とシステム構築ビジネスによりレバレッジしていくと思われます。
まとめ
本記事ではFFGのデジタルバンク構想から見る、地銀というビジネスモデルそのものの歴史と、抱える問題および近年での大きな変革について説明しました。
また、アクセンチュアのような有力なプレイヤーがこの領域のビジネスを大きく、かつ素早くスケールさせていることが同時にわかります。
これからも、地銀のDXに関する動きは当ブログでも逐一発信できればと思います。
今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。
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